2050年までに患者数が現在の3倍に達すると予測されるアルツハイマー病。この深刻な社会課題に対し、最新のAI技術を活用した研究が、意外な治療薬の可能性を見出した。注目を集めているのは、すでに多くの人々に使用されている既存薬の「シルデナフィル(バイアグラ)」である。
データが示す驚きの効果
クリーブランドクリニックの研究チームが行った大規模調査で、シルデナフィルを服用していた患者群では、服用していない群と比較してアルツハイマー病の診断率が30%から54%も低いことが判明した。この数字は、複数の要因による影響を考慮しても、統計的に顕著な差を示している。
研究チームは、数百万件におよぶ匿名化された保険請求データを分析。さらに、実験室での研究により、この薬剤がアルツハイマー病の原因となる有害なタンパク質の蓄積を抑制する効果があることも確認された。
AIがもたらす創薬革命
この発見の特筆すべき点は、その研究手法にある。研究チームは、人工知能を活用して膨大な医療データを分析し、既存薬の新たな可能性を見出した。この手法は、従来の創薬プロセスを大きく変革する可能性を秘めている。
シルデナフィルは、すでに他の疾患の治療薬として長年使用されており、安全性データが豊富に存在する。このような既存薬の「転用」は、新薬開発と比べて開発期間とコストを大幅に削減できる可能性がある。
細胞レベルでの効果を確認
研究チームは、アルツハイマー病患者の脳細胞を用いた実験も実施。シルデナフィル投与後の細胞では、脳機能の改善や炎症の軽減に関連する遺伝子の活性化が観察された。さらに、アルツハイマー病の特徴である有害なタウタンパク質の減少も確認されている。
実用化への期待と課題
研究を主導したフェイシオン・チェン博士は、「複数の異なるアプローチから得られたデータが、いずれもシルデナフィルの効果を示唆している」と述べている。ただし、この発見を実際の治療法として確立するためには、さらなる臨床試験が必要とされる。
現在、アルツハイマー病は600万人以上のアメリカ人が罹患している深刻な疾患だ。新たな治療法の開発は急務とされており、この研究成果は、治療法の選択肢を広げる可能性を示している。
創薬研究の新時代へ
この研究は、AIを活用したデータ分析と従来の実験手法を組み合わせることで、新たな治療法の可能性を見出すことに成功した好例といえる。既存薬の新たな可能性を探る「ドラッグリポジショニング」という手法は、今後の医学研究において、ますます重要な役割を果たすことが予想される。
アルツハイマー病をはじめとする難治性疾患の治療法開発において、このような革新的なアプローチが、新たな突破口となることが期待される。
参照:New research supports repurposing sildenafil (Viagra) for Alzheimer’s treatment
詳細情報:Dhruv Gohel et al, Sildenafil as a Candidate Drug for Alzheimer’s Disease: Real-World Patient Data Observation and Mechanistic Observations from Patient-Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Neurons, Journal of Alzheimer’s Disease (2024). DOI: 10.3233/JAD-231391